天体望遠鏡の最高倍率を求める【大人の天体観測】

木星30センチニュートン反射
天体望遠鏡の最高倍率

望遠鏡は遠くの物を大きく拡大するために生み出された道具です。際限なく大きく出来ればよいのですが限界があります。どこまで拡大できるのか?拡大するべき天体はどれなのか?大人の趣味で使う望遠鏡の性能の大きな要素である、倍率について実際の天体観測に有効な方法についての記事です。

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拡大して見ることは望遠鏡の使命

遠くにある天体を大きく拡大すると詳細な形状や表面模様を観察することができます。

趣味で天体を見る者にとって一番大事な要素です。

誰もがより高倍率を求めるのは正しい行為なのです。

そこには限界があり高倍率を活かせる方法と対象があることを知っておきましょう。

上限倍率以上で観測する天体は月と惑星だけです。DSO(銀河、性能、星団)は暗い天体なので上限まで倍率をあげて観測することはありません。

月、火星、木星は上限倍率を超えて観測したほうが楽しめます。

土星を口径13センチのニュートン反射を上限倍率を超えた325倍にして観測しています。接眼レンズは4ミリで2×バロー使用です。少し暗い感じですが大きくなって立体的な感じがして迫力もあり見やすいです!【13センチの上限倍率は260倍です】

望遠鏡の倍率に関する基本的な考え方

対物レンズまたは主鏡の焦点距離÷接眼レンズ(アイピース)の焦点距離=倍率

【例】 焦点距離1000ミリの望遠鏡に10ミリの接眼レンズをつけると100倍になります。

この場合、望遠鏡の口径は関係ありません。

望遠鏡の上限倍率【最高倍率】の考え方

光学望遠鏡には屈折式と反射式の2種類があります。どちらにも適用する倍率に対する基準があります。

口径をミリにした2倍が上限

口径10センチの望遠鏡を例に考えると100ミリの2倍で200倍が上限です。

倍率については焦点距離が変わっても同じ考え方になります。

焦点距離が500ミリでも1000ミリでも口径が10センチの望遠鏡の上限倍率は200倍です。

実際には焦点距離が長いほうが見え味は良くなります。短焦点になると高倍率は不利です。眼視観測用の見え味重視の望遠鏡は長焦点になっています。

上限倍率を超えると見え方が悪化!

像が暗くなってきます。それだけなのですが非常に見づらくなります。

問題は光学性能がはっきりと表れてくることです。倍率を高くしていくと対物レンズ、主鏡の性能が像に出てきます。

性能が悪いレンズでも低倍率ではごまかせます!

低倍率ではそれほど気にならないひずみや色収差の影響が大きく出てきます。

基本的に上限倍率を超えて大きくしても詳細が見えてくるわけではありません。

全体に大きく引き伸ばされるだけです。

対物レンズ、主鏡の性能が見え方を決めます!

対物レンズまたは主鏡の性能が良くない望遠鏡では上限倍率にいかなくても像が破綻してきます。

像の見え方にキレがない。シャープでない。視野の周辺にいくにしたがってひずみが出る。屈折望遠鏡では色収差で滲んだ像になっている。

以上のことが影響して詳細な観察ができなくなります。

月のクレーターなどはなんとなく形はわかりますがボヤけた印象の見え方です。

性能が悪いと土星の環は本体と分離せず土星は楕円形の星にしか見えません。

本来であれば口径5センチあれば土星の環は見えます。

上限倍率で性能を発揮できる望遠鏡は対物レンズ、主鏡の性能が求められます。

望遠鏡の倍率をあげることからくる問題点

対物レンズ、主鏡の精度が悪いと上限倍率にいかなくても見え味が悪化します。ぼやけた滲んだ見え方の天体になります。

対物レンズ、主鏡の精度に加えて鏡筒自体の精度が必要です。正確な光軸としっかりした接眼部がないと高倍率には耐えられなくなります。

さらに倍率が高くなると日周運動で天体が動く影響で落ち着いて観測できなくなります。

100倍以上になると天体が動いているのがはっきりわかります。観測は天体を絶えず追いかけながらすることになります。

さらに大気の影響を強くうけます。晴れていても大気が乱れていると激しく像が揺れます。

冬季は快晴の日が多いのですがジェット気流の影響で高倍率で観測できる日は極端に少なくなります。

大気の影響は想像以上に観測に悪影響を与えると思ってください。

倍率を高くするにはレンズ、主鏡の性能だけでなく望遠鏡の造りも重要です。そして日周運動の対策として微動装置か自動追尾機能がないと落ち着いて観測することはできません。

市販されている望遠鏡で上限倍率の可能性を考える

はじめて望遠鏡を購入する方には屈折望遠鏡をおすすめするのが一般的です。

一般的に評価が高く実際によく販売されている屈折望遠鏡の上限倍率の設定を調べました。

メーカー機種名口径と焦点距離上限倍率【アイピース】
スコープテックラプトル5050×60075倍【8ミリ】
スコープテックラプトル6060×70088倍【8ミリ】
スコープテックアトラス8080×1000167倍【6ミリ】
ビクセンポルタA80Mf80×910144倍【6.3ミリ】
ケンコーSky Explorer SE-AZ5mini+SE70Aセット70×90090倍【10ミリ】
池田レンズ工業レグルス6060×600100倍【6ミリ】
レイメイ藤井RXA31570×700108倍【6.5ミリ】
すべてアクロマート屈折式です

上限倍率を超えた設定はスコープテックのアトラス80だけのようです。

リストに挙げた製品はすべて無理な倍率設定はしていません。それぞれのレンズに見合った倍率設定で納得できます。

高倍率になると日周運動の対策が必要です。ラプトルは手動式のため上限倍率を抑えているのでしょう。

安心して使える望遠鏡だと思います。

どの望遠鏡も口径の10倍以上の焦点距離をもたせて光学性能を担保しています。どの望遠鏡も大人の趣味で使っても満足した見え味で応えてくれる性能です。

ネットで販売されているベストセラー望遠鏡は要注意!

上限倍率の5倍近い高倍率を謳っているものがあります。たとえば口径6センチで300倍とかです。

実用性はありません。像の破綻と架台が軟弱で使い物にならない仕様です。

焦点距離はF値が最低でも10前後以上の望遠鏡を選ばないと土星の環を見ることは難しくなります。

アクロマート屈折望遠鏡はF値を短くすると見え味が落ちます。高倍率の観測は向きません。長いF値10以上は必要です。

口径8~10センチの望遠鏡で口径の3倍くらいで観測可能な天体

すべての天体はより高倍率で観測したくなりますが中でも月と惑星は高倍率が有効な天体です。

高倍率で観測するには日周運動に対応した微動装置自動追尾が必要です。

上限倍率を超えて使える望遠鏡はニュートン反射、マクストフカセグレイン、アポクロマート屈折などの高精度の対物レンズ、主鏡を持った望遠鏡に限ります。

以下は口径が8~10センチの望遠鏡で観測した時の見え方について印象です。

アクロマート屈折は色収差の関係で上限倍率を守ったほうが無難です。高倍率になるとわずかな色収差の滲みを拡大して見ることになります。

月面の観測【光と影の世界。小さなクレーターやしわが良く見えます】

クレーターは低倍率でも十分認識できますが高倍率にして月面を見ると荒涼とした景色に驚きます。

しかも月はかなり明るい天体のため倍率を上がげることで暗くなったとしても、充分に観測に耐えられます。

上限倍率くらいのほうが明るさが落ち着いて観測しやすくなります。

火星【表面の黒ずんだ模様や白い極冠が良く見えます】

2年に一度地球に接近するときが観測のチャンスです。しかし接近してもそれほど大きく見える天体ではありません。

火星の表面には模様のような黒ずんだ陰影がかなりはっきりあります。表面輝度がかなり明るい星なので高倍率にすればするほど表面観察が容易になります。

本当に小さい星なので低い倍率だと表面模様がどんな形なのかわかりません。大きくすればするほど楽しく観察できます。

上限倍率を超えて大きく拡大する方が見やすくなります。

火星は明るくて見かけが小さいのでとくに高倍率にして見てほしい天体です。

木星【うねうねした縞模様が2本以上と大赤斑】

大きくて明るい天体で高倍率におすすめの天体です。縞に見える雲や大赤斑などは高倍率にするほどよく見えてきます。

本体の縞は2本以上ありそれもクネクネしています。大きいほうが見えてきます。

惑星のなかで明るさ大きさ表面の複雑な模様と観測しがいのある天体です。しかも空に見えるときはいつでも観測できます。

できるだけ大きくして観察しましょう。

土星【リングとカッシーニの空隙と本体の薄い縞模様:要口径8センチ】

リングを持った立派な姿は50倍くらいでわかりますが高倍率にしたほうがリングと本体の分離がはっきりします。

惑星のなかでは多少暗めですが上限倍率くらいなら明度は落ちません。私は上限倍率が260倍のところ325倍にして見ています。

カッシニーにの空隙は8センチ以上必要です。これが見えるか見えないかで望遠鏡の性能評価ができるスリットです。

性能が良い望遠鏡は明るい天体の月、火星、木星に関しては上限倍率を超えても見え味が悪化することはありません。むしろ大きくなることで観察しやすくなります。積極的に高倍率に挑戦して望遠鏡の限界性能を引き出してください。ただし日周運動の追跡は必ず必要になります。

倍率を大きくする方法【バローレンズと接眼レンズ】

倍率を変更する王道は接眼レンズを変えることです。接眼レンズはいろんな焦点距離が販売されています。

差し込み口を合わせて買うようにしてください。現在の標準は31.7ミリ(アメリカンサイズ)です。

望遠鏡によっては24.5ミリ(ツアイスサイズ)もあります。差し込み径を確認してください。

バローレンズ【安くて便利、積極的に活用しましょう】

単純につけると倍率を2倍とか3倍にしてくれます。

差し込み径が合えば接眼レンズは選びません。高倍率も低倍率も関係ありません。

接眼レンズの前に差し込んでください。

半世紀前はかなり批判的な扱いを受けていたレンズですが現在では高価な接眼レンズを購入するよりもコスパ的に優れた選択になりました。

対物レンズ、主鏡の性能が向上したことでバローレンズを使って倍率をあげても問題がなくなったのでしょう。

私は3×バローを使っています。違和感はありません。重宝しています。安いので有難いです。

上限倍率を超えて望遠鏡の性能を引き出す

上限倍率は口径の2倍がセオリーですがとらわれる必要はありません。

望遠鏡の性能が良ければ3倍でもよく見える天体があります。

月、火星、木星などの表面が明るい天体は大きくする方がよく見えます。

いちばん重要なのは大気の状態です。大気が悪いと観測できないです。

高倍率にかんするまとめ的な考え方

上限倍率に関しては対物レンズと主鏡の精度がまともであれば多少オーバーしても大丈夫です。

通常は口径の2倍が上限といわれていますが3倍くらいまでなら明るい天体には有効です。

しかし日周運動に関しては高倍率になればおおきな影響を受けます。【100倍超えるときになります】

自動追尾機能付きの望遠鏡をおすすめします。微動装置で追いかけるのは不可能ではありませんが熟練が必要です。

自動導入も付属しているのでコスパ、タイパで考えても自動化で対応すべきです。

高倍率にするときは必ず日周運動のことも考えた架台を選ぶようにしましょう!


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